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15:perfect blue

  • 2010/01/23(土) 15:52:12

イチルと十湖。
もうこの二人は私の自己満だけでできている。

長いです。

___________________


 テレビ画面一杯にうつった幼馴染の端正な顔に、十湖はほう、と息を吐く。
 どこまでも青い海を背景に立つ男にその色がよく似合っていると思う。

「最近すごいよねー。 東條一縷ってモデルだっけ?」
「ううん、俳優だよ」
「へー、そうなんだ」

 大して興味がないのか、十湖の前に座る響華はすぐに画面から視線を外す。 興味が削がれたことに十湖は安堵の息を吐く。 大学の人には十湖がイチルと幼馴染とは伝えていないのだ。 響華を信用していないわけではないが、それほど『東條一縷』の名前には影響があるのだ。
 響華が動くたびにくせのないストレートの髪がさらさらと肩から流れる。 くせっ毛の十湖は密かに響華の髪質に憧れている。

「あ、十湖、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「今日さ、泊めてくれないかな?」

 少し言いにくそうに響華が言う。 この言葉を聞くのは初めてではない、だいたいは響華の『同居人』が係わっている。

「いいけど……どしたの? また喧嘩したの?」
「そ。 今日こそ謝ってくるまで許さないんだから」

 普段は大人びた雰囲気の響華だが、同居人―響華の彼氏の事になると表情がとたんに幼くなる。 大体一晩たてばケロっとした顔で帰っていくのが常だ。

「じゃあ、何時くらいに戻ってる?」
「えーっと、今日は早いから夕方からもう部屋に戻ってるよ」
「そっか、じゃあ5時くらいに行っていい? お礼に私が食事作るね」
「やったー。 待ってるね」

 響華の手料理は絶品なのだ。 自然と顔に笑みが浮かんだ。






***






 講義が終わり、部屋に戻る。 最近はイチルの部屋に入り浸っていた所為で、この部屋に戻るのが久しぶりな気がする。 おかげで散らかってはいない。
 雑誌を読みながら響華を待っていると、5時少し前にインターホンがなる。
 すぐに玄関に行き、扉を開く。

「響、」
「よお」

 そこに立っていたのは響華ではなく、お昼に画面の中で見たばかりの、幼馴染だった。

「イ、イチル、どうして」
「お前こそ、なんで部屋に帰ってないんだよ。 折角今日は俺が早く帰ってきてやったのに」
「友達が泊まりにくるの、だから……」
「男か?」
「違うよ!」

 不機嫌そうに言うイチルに、十湖は慌てて否定する。 もう5時なる。 いつ響華がこの場に現れてもおかしくないのだ。

「女の子! だから、今日は……帰って」
「はあ? 俺を追い出そうってか」
「そうじゃなくて! ……イチルと幼馴染って言ってないし」
「だからなんだよ?」

 イチルの機嫌がどんどん下降していく。 怒らせたいわけではない、けれど十湖の言葉はすぐにイチルをいらつかせる。 イチルの為を思っての事なんだと分かって欲しくて十湖は懸命に言葉を探す。

「ほら……イチルだってこんな所見つかっちゃったら、ダメでしょ?」
「なんでだよ」
「だ、だって、色々書かれるよ? 人気だって下がっちゃうかもよ?」
「かもな」
「だったら!」
「でも俺は俺自身を偽るような俳優にはなりたくない。 私生活まで演技する必要ねーだろ」
「でも……でも……」

 口争いでイチルに勝てた事はない。 自然と後退する。

「もしそうなったら、一番影響あるのは貴方じゃなくて、十湖じゃないですか?」

 部屋の中に半分入っている十湖から見えないが、その声が聞き覚えのあるものだとすぐにわかった。
 十湖の目の前にいるイチルが訝しげに声のした方を向いている。

「さっさと部屋に入ってください。 こんな所で言い争ってる方が目立ちますよー」
 
 イチルの背中を押しながら、響華が部屋に入ってくる。 押されてイチルの体が十湖に近づく。

「押すな。 この部屋の限界は狭いんだ」
「じゃあ、早く靴を脱いでくださいよー」
「……いい、俺は帰る」
「そうですか……じゃ、十湖、私、部屋に行ってるね?」

 そう十湖に告げると響華は玄関から廊下を通り、リビングへと姿を消した。 まったく想像していなかった反応に、十湖はおろかイチルまで圧倒されたようにその後姿を見送った。

「バレちゃったよ」
「うるさい」
「イチルのバカ」
「なんでだよ!」
「なんで、来たの?」
「待ってるだけっつーのは、性に合わないんだよ」
「……待ってなんかない。 イチルはいつも私を置いてけぼりにしてるよ。 私、イチルが好きなのに」
「黙れよ」

 そう告げると、イチルが十湖の体を抱きしめ、唇を合わせる。 黙れ、とイチルは言う。 十湖が言葉を紡ぐたびに言うのだ。 それはまるで十湖が感情を伝えるのを拒否しているようで、悲しい。
 抱きしめられる腕は痛いくらいだ。 けど、もっと痛くして欲しい。 傷つけないで欲しい、痛くして欲しい。
 脳裏に昼に見た、イチルのテレビコマーシャルが思い浮かぶ。 透き通った水の青。 イチルは青だ、水だ。 いつでも指をすり抜けていく。 
 最後に柔らかく、触れるだけの口付けを施され、イチルは十湖から離れる。
 無言で出て行くイチルの背中を追いかけたい衝動にかられる。 けどその衝動を抑えると、十湖はリビングへと行く。

「私、留守番でもいいよ?」

 リビングに入って一番最初に目にしたのは、人の悪そうな笑みを浮かべた響華の顔だ。 

「え、と……あの……」
「なぁーんか、妙に『東條一縷』の事だけくわしいなぁ、と思ってたけどまさか付き合ってたとはねー」
「つ、付き合ってないよ! ……イチルは幼馴染なの!」

 慌てて言う。 イチルの名誉は守らなければいけない。

「そっかぁ、じゃあ片想いか」

 呟くように言った響華の言葉に十湖の体が震える。 自分の気持ちはそんなに分かりやすかったのだろうか。 それとも先ほどのイチルとのやりとりを聞かれていたのだろうか。
 顔が熱くなるのが分かる、羞恥心に死にたくなる。

「大丈夫よ、誰にも言わないから」
「うん……黙ってて、ゴメンね?」
「別に、誰彼にいう事じゃないでしょ? 気にしてないわよ。 まあ、芸能人でも片想いをするんだな、って事がわかったのは新鮮だったけど?」
「? ……なんのニュース?」
「なんの、って……あれ? 気づいてないの?」
「え?」
「………こういうのって、私が言ったらダメよね? あんまり人の恋路に他人が首をつっこまない方がいいのよね。 うん、そうよね」

 自分に言い聞かせるように響華がぶつぶつと呟く。 言葉の意味が分からず十湖は始終頭の上に、クエスチョンマークを浮かべている。

「んー。 ご飯食べたら、やっぱ私帰るね」
「え? なんで?」
「やっぱさ……鷹に、ってか彼氏に逢いたくなったから」

 照れ笑いを浮かべる響華に、そっか、と落胆したような声を出す。

「だから、今の内に仲直りしたほうがいいんじゃないの? 東條一縷と」
「え?」
「仲直りはあんまり時間を置かないほうがいいと思うわよ」
「……うん、そうかな……」
「そうそう!」

 明るく言われて、十湖は思わず笑みを零す。 部屋に一人きりいるのは寂しい。 もしも、まだ一縷が怒っていて泊めてくれなかったら帰ってくればいいだけだ。 やっぱり追いかけているのは自分だけだ、と十湖は一人ごちた。

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